低濃度アトロピン治療について~目薬での近視進行抑制治療~

低濃度アトロピン治療について

近視は遺伝性疾患と言われており、特にアジア人に多いといわれています。
両親のどちらかでも近視の場合、お子さんに高率に遺伝します。
また、昨今はデジタルネイティブ世代といわれ、児童をとりまく環境要因(外遊びの減少、スマホの普及など)が加わり、近視進行が社会問題となっています。
近視が過度に進行すると、日常生活で常に眼鏡装用が必要となる不便さのみならず、将来的に網膜剥離や強度近視性黄斑変性など、目の機能そのものを大きく損ねる病気になる可能性が増えます。


当院では、近視進行抑制のためにアトロピンという目薬を薄めてさすという方法を導入しました。
国内、海外の論文では、濃度を調整することで副作用を最小限にして、なおかつ十分な近視進行抑制効果が得られることが示されています。
現在国内では承認薬はありませんので、完全な自費診療扱いとなります。(お子様の医療費助成の対象外です)

低濃度アトロピン治療とは

低濃度アトロピン治療の対象者

低濃度アトロピン投与の対象者は「近視が進行しそうな子供」です。学校検診で近視が引っかかり、親御さんが近視であったり(遺伝要因)、近見作業が多かったり(環境要因)などです。
近視は小学校低学年から高校くらいまで進行するリスクがありますから、何年も長期にわたり続けることになります。

低濃度アトロピン治療の特徴

もともと濃度0.01%のものが使用されていました。これは、近視進行を平均40%軽減させると言われています。しかし、その後の研究で、0.01%では濃度が薄すぎる可能性があることがわかりました。もともとのシンガポールでの研究でも、近視進行抑制効果は明らかに濃度依存性(濃いほどよく効く)があったのですが、当時データがあまりなく副作用の懸念から0.01%が主に使用されていました。

近年の日本での研究においても0.01%を使用した場合、近視進行抑制効果は認められました。ただ、抑制効果においては十分とはいいにくいものでした。
そのため、当院では0.025%の製剤を採用とさせて頂きました。
0.01%の製剤とくらべ値段はあがりますが効果も期待できます。副作用としてまぶしさを訴える事が稀にあります。多くの場合、サングラスはほぼ不要です。

また、目の遠近調節機能(手元を見る作業)にも殆ど影響を与えないといわれています。近見視力の低下に殆ど影響を与えず、更に累進屈折眼鏡も不要です。毎日就寝前に1滴点眼するだけの、非常に簡単な治療法です。

低濃度アトロピン治療の安全性

シンガポール国立眼科センター(SNEC)のアトロピン0.01%の効能・効果及び安全性の研究(点眼を2年間継続した後によるもの)では以下のように報告されています。

  1. アレルギー性結膜炎及び皮膚炎の報告はありませんでした。
  2. 眼圧に影響を与えないとの報告でした。
  3. 白内障を形成するとの報告はありませんでした。
  4. 点眼終了後も目の遠近調整機能の低下、また瞳孔がひらき続けてしまうという報告はありませんでした。
  5. 電気生理学上、網膜機能に影響を与えるという報告はありませんでした。
ただし国内未承認薬となります。長期的な経過を観察した論文は国内にはまだありません。長期間使用する点眼薬であり、今後新たな合併症が明らかになる可能性があります。

治療について

治療の詳細

対象は基本的に6歳~17歳まで、軽度~中等度(-1D~-6D)までの児童ですが、個々の症例に応じて適応を判断します。

最低でも2年間以上、可能なら思春期終了まで(17~18歳)の継続が推奨されます。

就寝前に必ず1滴点眼してください。(2滴不可)

目薬は防腐剤非添加です。感染症などのリスクを避けるため、1か月後に残量があっても必ず破棄してください。

開始後は1か月後、その後3ヶ月に1回診察・検査が必要です。

進行が継続してみられる場合はオルソケラトロジーなどの他治療の併用をおすすめすることがあります。

治療の限界

当治療はあくまでも近視の進行を抑制するものであり、「いまある」近視を軽減することはありません。
今視力0.5のお子さんが、この治療によって視力1.0に回復する、ということはありません。また、抑制効果は2年間でおよそ6割であり、近視の進行を完全に抑え込むこともできません。つまり、当治療を継続しても、ある程度は近視進行するということになります。
また、治療を中断すると急激に近視が進行するリバウンド現象が報告されています。

治療効果を高めるために

最近の研究で、外遊びを2時間以上する子供はやらない子供よりも有意に近視の進行が抑制された、との報告があります。ただし、現実問題として2時間の外遊びを継続するのは難しいと思いますので可能な限りの外遊びでもよいと思います。紫外線がカットされる窓際の屋内は効果を期待できません。外での遊び、作業を意識しましょう。

費用について

本治療は自費診療(保険適応外)です。

初回の処方時6000円(税込)
診察・検査費用(2000円)+目薬代1本分(4000円)
屈折(近視の程度)、眼軸長、視力、眼疾患の有無などをチェックいたします。

3か月ごとの定期受診 14000円(税込) 診察・検査費用+目薬代3本分。
屈折(近視の程度)、眼軸長、視力、瞳孔径、副作用の有無などをチェックいたします。

注意点

  • 点眼に伴う合併症の治療はすべて実費負担となります。
  • 混合診療は行いません。近視進行抑制以外での診察はかならず別の日に受診していただきます。定期検査の日に、花粉症も診察、ということは行いません。
  • 患者さんの都合で治療が中断になる場合、いかなる理由であっても返金はいたしません。医師の判断で中止する場合は個別に対応いたします。